3Dスキャンソルーション

Artec 3D社のウクライナへの支援内容

Artec Space Spiderによるヨークシャー博物館収蔵の『ライデールの秘宝』の3Dスキャン

課題:ヨークシャー博物館は、千八百年前のブリタンニア時代の『ライデールの秘宝』を入手した後、この掛け替えのない四つの収蔵品を近隣や遠くからの訪問者の方々に公開するため、学芸員の最新の画期的技術により、収蔵品の史実的に正確な3Dデジタル複製版を素早く、しかも非破壊的に作成する必要に迫られた。

ソリューション:Artec Space Spider、Artec Studio、及び3D Systems ColorJet printer

結果:四つの『ライデールの秘宝』はそれぞれ五分以内で無事にスキャンされた。全てのスキャン及び処理作業は一時間以内に完了し、四つの収蔵品全ての息を飲むような3Dデジタル複製版が完成した。従来のフォトグラメトリの方法であれば、収蔵品を持ち運びして特定の場所に設置する作業がかなりの量必要となり、キャプチャに丸一日、写真から3Dモデルの作成に更にもう一日費やしていたであろう。

銅の輝きに気付いた瞬間、二人は掘削を止めた。イギリス、ライデールにある農地で金属探知を行っていたマーク・ディドリック(Mark Didlick)とジェームズ・スパーク(James Spark)は当初、それが青銅器時代の斧頭の一部からのものだと思ったが、数分後、農地の穴から掘り出してみたものがマルクス・アウレリウス・アントニヌスの小さな胸像と分かり、驚くしかなかった。

Yorkshire Museum’s Ryedale Hoard

金属探知を行う愛好家により発見された、マルクス・アウレリウス・アントニヌスの銅製の胸像の発掘数分後の様子。写真:マーク・ディドリック

数分に思えたしばらくの間、この古代の皇帝の顔から土の塊を指で払いのけながら、二人は声も出せずにいた。

この胸像は、その日の二つ目の発見であった。二人は付近を探し回り、発掘を終える頃には、胸像の他に三つの物体を掘り出した。それは、下げ振り、ローマ帝国の神マルスの肖像、そして、馬の頭を模ったナイフの柄であった。

ディドリックは、元考古学者のブライアン・ウォーカー(Brian Walker)に発掘品を撮影した写真を数枚送付した。ウォーカーは驚き、おそらく西暦二世紀に遡るローマ帝国期の工芸品であろう、と説明した。

農地からヨークシャー博物館展示ホールへ

その後、数週間の間に、ブリタンニア期からの最も素晴らしい出土品の中に入る、千八百年を経て発掘された工芸品は鑑定を受けた上で認証され、『ライデールの秘宝』と名付けられた。出土品は後にヨーク博物館基金により買収され、それ以来、ヨークシャー博物館にて展示されている。

ヨークシャー博物館の上級学芸員であるアンドリュー・ウッズ(Andrew Woods)によると、「これまで、ローマ帝国期の非常に優れた工芸品が、イギリスで一度にこれほどの数、それも一ヶ所で発見された例はない。これらの工芸品はすべて、信じ難いほど素晴らしい職人技を体現している。当館では、このすべての発掘品がローマ帝国の最盛期にイギリスで製作されたと考えている」ということである。

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『ライデールの秘宝』のローマ帝国帝王マルクス・アウレリウスの胸像。画像は、ヨーク博物館基金の厚意で掲載

本来はローマ帝国の皇帝礼拝の司祭の杖の先に取り付けるよう製作された、このマルクス・アウレリウスの素晴らしい胸像は、皇帝を讃える儀式や式典で頻繁に使用されていたに違いない。

この類まれな作品を製作した芸術家はおそらくイギリス出身であり、皇帝との面識はなく、当時入手可能であった彫像や硬貨に描かれたものを基に胸像を創り上げたと考えられる。

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『ライデールの秘宝』の騎乗するマルス像を手にするヨークシャー博物館上級学芸員アンドリュー・ウッズ。画像は、ヨーク博物館基金の厚意により掲載。著作権所有者:シャーロット・グラハム撮影所(Charlotte Graham Photography)

帝国において、ローマの神マルスは騎乗している戦士として描写されることが多い。この小さな像では、マルスは馬を戦地へ全速力で走らせているが、かつて振りかざしていた槍や盾は、何世紀もの歳月の間に紛失されてしまっている。

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『ライデールの秘宝』の馬の頭を模った小刀の柄。画像は、ヨーク博物館基金の厚意により掲載

ローマ帝国時代には、動物は日常的に使用される物品の飾りとして、一般に使用されていた。この馬を模った柄には元々小刀が付いていたが、埋設する前に意図的に取り去られていた可能性がある。

『ライデールの秘宝』の下げ振りは過去二千年の間にも不変のデザインで、ローマ帝国期のイギリスでは、新設される道路や要塞、開拓地のための正確な計測を行う重要な役割を果たしていたと考えられる。

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ローマ帝国期の『ライデールの秘宝』。画像は、ヨーク博物館基金の厚意で掲載

研究者は、これらの工芸品は、神への捧げものの一種として西暦二世紀後期に埋設されたと結論付けたが、その値段のつけようのない工芸品の重要性、及びこのような形で埋められた理由の双方についての全容を更に明らかにするため、研究は未だ続行中である。

『ライデールの秘宝』のデジタル複製版の製作

ヨークシャー博物館は、自身のデジタル界を牽引する立場、オンラインでの存在感の構築、および世界中への収蔵品をシェアする取り組みに焦点を当てて活動していく際の欠かせない一歩として、『ライデールの秘宝』を三次元でキャプチャすることを決定した。

博物館ではこれまで、そのようなプロジェクトの大部分は、ヨーク大学(University of York)のHeritage360との提携により、フォトグラメトリを利用して行われていた。

しかし、(カメラ一台のみを使用した場合の)時間を要する写真撮影や、キャプチャするそれぞれのオブジェクトの設置や撤去にかかる手間などが発生するフォトグラメトリの性質上、このようなプロジェクトを行う際には、数ヶ月と言わなくても、数週間前に学芸員と予定を立てておく必要がある。

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Artec Space Spiderによるマルクス・アウレリウスの胸像の3Dスキャン。画像は、Heritage360の厚意で掲載

Heritage360のパトリック・ギブス(Patrick Gibbs)の言葉を借りれば、「歴史的な工芸品のキャプチャには、多くの作業が含まれる。そういった物品をただ取り出して数分の間にキャプチャする、というほど単純ではない。工芸品に損傷を与える恐れがある上に、学芸員の同伴が必要であるため、我々は博物館と連絡を取り合いながら、すべての過程を行っていく際の最善でかつ最も安全な方法を考案していく必要がある」ということである。

ギブスは続けて、「我々のカメラ一台でのフォトグラメトリの設定では、工芸品を扱った作業には、全てがキャプチャされ、必要なものがすべて揃ったことを確認するだけのために二日費やすことになる。すべての計画上の課題を考慮するため、この準備には二、三ヵ月かかる場合もある」と話す。

もし、この方法を今回採用したなら、ヨークシャー博物館の『ライデールの秘宝』のデジタル化の計画と実行には、必然的に何ヶ月も要することになっていただろう。言うまでもなく、博物館では、その他の何千もの芸術品もデジタル化を待っている状態なのである。

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『ライデールの秘宝』の馬に乗るマルス像。画像は、ヨーク博物館基金の厚意で掲載

従来のフォトグラメトリの代替案を求めて

このため、ギブスと彼のデジタル技術専門家であるジェームズ・オズボーン(James Osborn)はその他の可能性を探すべく、市場を当たることを余儀なくされた。オンラインでの調査により、二人はArtec社のアンバサダーであり、文化遺産保全やその他の様々な産業での3Dスキャニングを専門とするCentral Scanning社の名前を見出した。

ギブスとオズボーンは、初回の実演も終わらぬ前に、自身のプロジェクトに適任と思われるソリューションを見つけたと感じた。それが、Artec Space Spiderであった。

Space Spiderは、世界中の考古学者、文化遺産保全の専門家やその他の人々に何年も愛用されているハンドヘルド式3Dスキャナである。

この機器は、ターゲットやスプレーも必要とせずに、オブジェクトの最も複雑な部類のディテールでさえもミリ単位以下の正確さでキャプチャでき、鮮やかな3D のカラーでの複製も可能なスキャナであり、オンラインや博物館内での展示会、デジタル保存、3Dプリントされた教育用のモデルだけにとどまらない、幅広い用途のためにスキャンデータを収集できる。

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Artec Space Spiderでローマ帝国期の人間の頭を模った壺をキャプチャする、Central Scanning社のアレックス・チュン(Alex Chung)。画像は、Heritage360の厚意で掲載

ウッズは、このスキャナがヨークシャー博物館の計画で役立った様子について、「我々にとって非常に重要だったことは、博物館内にただ入るだけでは味わえない体験を来訪者の方に提供することであった」と語る。

更に、「来訪者の方には、オブジェクトを損傷する恐れの全くない形で、仮想的に持ち上げて回してみたりしながらじっくり観察していただくことができ、また、学芸員の用意したラベルや注釈をご覧になりながら、オブジェクトにまつわる多くの興味をそそる事実や物語に関心を持っていただいたりすることにより、皆様の美術品との体験は印象に強く残るものとなる上、誰のものでもない皆様だけの体験となる」と話す。

一時間以内に完了した『ライデールの秘宝』全体の3Dスキャン

新しく購入したSpace Spiderにより『ライデールの秘宝』の3Dスキャンを行った際には、ギブスとオズボーンは驚きを隠せなかった。プロジェクトを手伝っていた学芸員も、同様の反応を示した。

四つの工芸品は一つずつArtecターンテーブル上に設置され、スキャン開始から完了までの所要時間は、それぞれ五分以下であった。スキャンデータはArtec Studioソフトウェア上で処理され、十分後には、工芸品の目を見張るような3Dモデルへとその姿を変えた。

「来訪者の方には、オブジェクトを損傷する恐れの全くない形で、仮想的に持ち上げて回してみたりしながら、じっくり観察していただくことができる。皆様の美術品との体験は印象に強く残るものとなる上、誰のものでもない皆様だけの体験となる」

すべてのオブジェクトの個別の3Dモデル作成のための準備、スキャン、及び処理に必要となった時間の合計は、一時間に満たなかった。以前のフォトグラメトリによる作業と比較して、その違いは歴然としていた。

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Artec Studioソフトウェア上のマルクス・アウレリウスの胸像のSpace Spiderによるスキャンデータ。画像は、Heritage360の厚意で掲載

このことに触れ、オズボーンは、「フォトグラメトリを使用していたなら、オブジェクトのキャプチャだけでも丸一日かかっただろう。それに、もし作業中に光の具合が少しでも変化したなら、学芸員に頼んでオブジェクトを再び引っ張り出してもらって、同じ光の状態で作業をやり直す必要があった。おそらく、同じ日のうちには無理だっただろう。その埋め合わせのためには、とにかく大量の追加の写真を撮影しなければならず、その出来の確認も処理段階までできないため、全てが上手く撮れていることを祈りながら撮影するしかなかった」と語る。

オズボーンは更に詳しく、「すべての写真の処理が始まると、すべて計画通りに行っていることを信じながら、次の日のことを考えていた。全てを考慮すると、Space Spiderでは一時間で済んだ作業が、フォトグラメトリの場合は、必要となるあらゆる小さな道具の置いてある中、オブジェクトそれぞれを撮影のために持ち歩いて特定の位置へ設置する、という危険な作業を除いたとしても、ほぼ二日かかるところだった」と話す。

スキャンデータを並外れた品質を持つ3Dモデルへと変換する

Artec Studio上のスキャン処理においては、彼らのワークフローは単純明快だった。まず、ベースの除去機能を使い、オブジェクトの背後の不必要なデータをすべて消去した。それが完了すると、スキャンデータの位置合わせを行い、すべてのジオメトリを一体化した。

その後、〇.一ミリでシャープメッシュ化を行い、3Dモデルをエクスポートする際には、オンラインでの閲覧のためにポリゴンの数を減少させ、ファイルサイズの表示速度を最適化させた。

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Artec Studioソフトウェア上の馬に乗ったマルス像のSpace Spiderによるスキャンデータ。画像は、Heritage360の厚意で掲載

結果、完成した3Dモデルは現在、ヨークシャー博物館内、オンライン上の両方で使用されている。前者では、元となる工芸品を展示しているディスプレイの横に、Sketch Fabの該当するモデルにリンクされたQRコードが記載されており、来館者はこのコードを使用することにより、より高いレベルの『体験』ができるようになる。

ヨークシャー博物館が世界中にコンテンツをシェアした方法とは

博物館の活動はまだ続く。次なる目標は、一週間に数百万人の閲覧者があるウィキメディア・コモンズなどのサイトに、作成した3Dモデルを掲載することである。

ウッズはその理由について、こう説明する。「こうすれば、我々の収集品を見る機会や、ましてや、この博物館に来館する機会にも巡り合えないような世界中の人々にも、そういった作品を閲覧可能とすることができる。これらの3Dスキャンデータを人々の集う場所に設置すれば、遥かに簡単な形で関係を築くことができる」

ヨークシャー博物館は、『ライデールの秘宝』の3Dモデルの低解像度版、高解像度版の両方を無料でダウンロードできるようにする予定だ。教師、芸術家、研究者やその他の職業を持つ人々は、いつでもスキャンデータをダウンロードして、好きな用途に使用できる。

教育用に3D印刷された見事なレプリカ

ヨークシャー博物館とHeritage360は教育支援活動の一環として、博物館を訪れる学校の生徒たちのために、『ライデールの秘宝』のSpace Spiderのスキャンデータを3D印刷した、「持ち運びできる」バージョンを作成することを決定した。

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3D印刷され、手作業で着色された『ライデールの秘宝』。画像は、ヨーク博物館基金の厚意で掲載

このような館内での試みに対し、当時は経験も機材も持ち合わせていなかったヨーク博物館基金とHeritage360は、3Dデジタル遺産を専門とするThinkSee3D社のスティーブン・デイ(Steven Dey)に連絡を取った。デイは同社の創業した二〇一五年から、イギリスなどの博物館やその他の取引先に、デジタルで作成された史実的に正確な何百ものレプリカを納入していた。

Heritage360から『ライデールの秘宝』の3Dモデルを(OBJファイルとして)デイが受け取った後、四つのオブジェクトは3D Systems ColorJet Printerにより、石膏コアを使用した上で一度に3D印刷され、その作業時間は開始から終了まで約三時間であった。

古びた外観を再現するため、優れた技術により施された『経年化』のプロセス

外観の基本となる色が下地として塗り込まれた後、オブジェクトはエポキシ樹脂で表面をコートされ、乾き切る前に銅粉が振りかけられた。コーティングが定着すると、表面の銅が新品のように輝く様子を再現するため、オブジェクトに磨きが加えられた。

その上で、スプレー塗料とワックスの組み合わせによって人工的に経年効果が加えられ、極めて元のオブジェクトに近い、緑青を帯びた外観が完成した。

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3D印刷の上、手作業で塗装されたマルクス・アウレリウスの胸像のレプリカ。画像は、ThinkSee3D社の厚意で掲載

現在では、学校の生徒たちは、重要な歴史の一ページである『ライデールの秘宝』を扱った、教科書による授業の忘れ難い副教材として、美しく忠実に再現されたレプリカを実際に手に取って、じっくり鑑賞することができる。

未来で楽しむために過去を3Dスキャンする

『ライデールの秘宝』のデジタル化を無事終えたヨークシャー博物館は、その他の収蔵品にも同じ作業を行う計画を立てているが、その中には刃や宝飾品、絶滅した恐鳥、ウミスズメや恐竜、複雑な形状のブリタンニア時代の床材のモザイクや埋葬用の鋳型の他、多くの魅力的なオブジェクトが含まれる。

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ヨークシャー博物館の『ライデールの秘宝』展覧会訪問中のHeritage360のジェームズ・オズボーン。画像は、Heritage360の厚意により掲載

ウッズは3Dスキャニングがもたらした変化について、「博物館の良質の学芸員ならば、人々に情報を伝達するだけでなく、あらゆる年齢の人々に芸術品を味わう『旅』を体験していただき、対象となる芸術品に関して記憶に残る事象を各々発見していただけるよう、導いていくことができる」と語る。

そして、「そのことが、Artec社による3Dスキャニングによって可能となった」と続けた。

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